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ハオ丸陰陽堂弐号店幻さん

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『寸劇』

いつからだ、とざんばら髪の男は思う。

あの男と、慈悲も情けも持たず、ただ有り余る殺気と恐ろしい腕、何かが、跡形もなく壊

れているような、しかし、まるで砕けた硝子のような雅を持つ男と―――

「………覇王丸殿」

おっ、と顔を上げた。

眼前には、橘右京がいる。

顔や額に包帯を巻き、はだけた胸には晒しが厚く巻かれている。

「如何された?」

へっ、覇王丸は焼酎を口にした。酒が傷に沁みる。

覇王丸もまた、晒しや布で傷を覆っている。

先刻、斬り合った。

喧嘩である。

結果は見ての通りである。

居酒屋の一角に、傷だらけの右京と覇王丸が座している。

酒の肴は、豆腐に漬物、そして武術談義である。

その最中、ふと覇王丸が窓外を見つめたのだ。

闇に浮かぶ三日月を、おぼろげに見つめながら。

「………何を………」

右京、口数が少ない。何を考えていたのか、そんな短い言葉さえさらに少なくなる。

「………あの野郎のことさ」

ああ、と右京、同じく窓の月を見つめ納得した。

この、武蔵生まれの剣士と知り合い既に数年が経っている。

あいつ、野郎、あの野郎、―――脈絡もなく飛び出す代名詞が、一体誰のことを指す

か、右京は知っている。

「右京さん」

ん、と顔を上げた右京に、覇王丸は笑みを向けている。

「あんた、いい奴だな」

「…………」

「それに比べて、あの野郎はどうかねえ。どうしようもねえ悪党だ。

神も仏も信じねぇ、女子供は進んで斬る。けど、何故だろうねえ―――」

自らに問いかけるような口ぶり。

焼酎を一飲みし、覇王丸は考える。

いつからだろう、あの男を―――

牙神幻十郎の凶刃を嬉々として迎えるようになったのは―――


不気味、それが第一印象だった。

飛騨は枯華院―――若き覇王丸はそこへ、かつて剣豪として名を馳せた花諷院和狆

に師事を仰いだ。

先輩弟子として男は、いた。

牙神幻十郎

巨漢、そう呼ばれた覇王丸を凌駕する見事な巨躯の男である。

口数は少なく、無愛想―――

特徴的なものが、二つ。

一つは、異様にぎらついた眼である。

まるで野生の狼のようにそれは光り、会わせる者を威嚇した。

そして一つは、背にある不気味な三日月上の刀傷である。

見事に隆起した筋肉が、そこのみ、まるで抉られたように無くなっていた。

兄弟子、である。

が、刀を抜いたところを見たことがない。

枯華院の本堂や石段など、覇王丸が稽古する中、幻十郎はただ、関心なさげに煙管を

吸ってばかりいる。

「あの、幻十郎さん」

この頃は覇王丸、まだ敬語を使っていた。

言うと、ギラリと鋭い目が向けられる。

「どうすれば、強くなれますかねえ」

「知らん」

毎度、その調子である。場合によっては答えさえなかった。

自分に係わりのないことに対し、男は異常に無関心だった。

時折、男は街に出かけた。

毎度、何食わぬ顔で出かけ、何食わぬ顔で帰ってくる。

その後、覇王丸、町へ買出しに出された際、知った。

幻十郎が、人を斬っている、と。

それも、並みの人斬りではない。

聞いた話は十数件にも及ぶ。

うち一つ、街のごろつき数人に因縁をつけられた、という。

幻十郎、四の五の言わずに抜いた。

ごろつきどもを叩き斬った。それも、早業である。

恐れをなして逃げる者も逃さず斬った。

さらには、周囲にいた者も巻き添えを食らい、数人が斬られた。

殺人嗜好者か、が、それがどうも違う。

弱すぎる、と言い残したという。それも、さも物足りなさそうに―――

その後、色々と話を聞いた。

ただ、悪評ばかりが集まっていく。

慈悲のない人斬り、女子供も容赦なく、いや敢えて先に斬る。

千人斬りを果たした、

斬人剣の使い手―――

それから数日、

「覇王丸―――」

木刀を振るう覇王丸、振り返った。

幻十郎、彼から話しかけるのは初めてだった。

「何故、強くなりたい?」

歯に衣着せぬ物言い―――それを、例の野生じみた眼が助長する。

「いや………」

返答に窮した。相手が相手である。

男のことを知らぬならばともかく、覇王丸、すでに幻十郎の悪行の様々を知っている。

「………強くなりたいからだけど」

戸惑いながら答えた。そこに嘘偽りはない。

くっ、幻十郎の口元が笑った。それを見るのもまた、初めてだった。

「強く、か」

その、夜だった。

覇王丸、眠っている。枯華院は古くも広く、住む者も四人ほどである。

部屋は一人一人に宛がわれている。

と、覇王丸、寒気を覚えた。

目を開けると、窓が開いている。

夜空に浮かぶはずの月、それが何故か、頭上に輝いている―――

ハッとした。

床を転がると、布団の上に刃が容赦なく振り下ろされた。

驚愕のままに顔を上げる。

暗闇の中に浮かぶ、月光に照らし出された刀、そして、あの野生じみた、凶暴にぎらつ

く眼―――

「幻………!」

「強くなりたい、と言ったな」

何かが投げつけられる。それは、覇王丸の愛刀・河豚毒―――

「今のお前の強さ、試してやろう―――」

幻十郎、言うや斬りかかった。

覇王丸、何が起こったのか分からぬまま、剣を受けた。

ドッ、勢いよく床に転がる。

構わず、幻十郎の二の太刀が襲う。

その全身から放たれる殺気、嘘偽りはない。

―――この男は、俺を、殺しに来ているのか!?

何故―――そう考える暇はなかった。

ただ前には、幻十郎の無限の剣が襲い掛かってくる。

覇王丸、決した。

―――殺らなければ、殺られる!

刀を交わし、距離を取る。

ざっ、床を力強く踏みしめる。

思い切り、振りかぶった。

重心を後ろに―――

さらに猛攻する幻十郎を、見据える。

と、覇王丸の細めた目が、カッと開け放たれる。

―――斬鉄閃

カッ、暗闇に閃光が走った。

それが、二人を照らす。

振り下ろしかけた刃で、受け、体を数間吹き飛ばされる幻十郎を。

会心の一撃、それを見事受け取られ、驚愕する覇王丸を―――

「―――覇王」

えっ、驚いた。

幻十郎の顔である。

闇夜に隠れてはいるが、口元が微笑んでいる―――

ダッ、幻十郎が地を蹴る。

それは先ほどの剣を凌駕する、凄まじい剣の雨―――

覇王丸、受けるしかなかった。

じりじりと後退し、幻十郎の刃が覇王丸の額を、腕を、脚を刻んでいく。

が、

「死なぬ―――」

ドッ、覇王丸が突き飛ばされ、そのまま壁に背を突いた。

そこへ、幻十郎、上段から力任せに振り下ろした。

火花が散った。刃が、十字に交わる。

「貴様―――」

激しい剣の押し合い。が、幻十郎の膂力が、覇王丸を勝っている。

と、幻十郎が一瞬の隙を突いた。

カッ、覇王丸の河豚毒が払われる。

貰った―――そうとばかりに幻十郎の刀、銘刀・梅鶯毒が振り下ろされる―――

どっ、幻十郎の手が止まった。

瞳を閉じた覇王丸、ゆっくりと眼を開いた。

そこには、灯りがあった。

それが、幻十郎の手を制止する錫杖と、それを握る花諷院和狆を照らす。

「幻十郎」

「…………」

「破門じゃ」

幻十郎、何の弁解もなかった。

ただ、何事もなかったかのように剣を鞘に納め、くるりと背を向ける。

が、振り返った。覇王丸にである。

「覇王丸」

「――――――」

「いつか必ず、殺ス―――」

幻十郎、奇妙な男である。

言葉に相反して、口元が笑っている。

「で、あとは、今のまんまさ」

覇王丸、橘右京、店を出た。

酔い醒ましがてら、歩いている。

夜空には、見事な三日月―――あの男の刀傷のように。

「……何故……」

「ん?」

右京、尋ねる。何故、あの男は、執拗に覇王丸を狙うのか、と。

「―――さあねえ」

気のない返事である。

幻十郎去りし後、和狆から色々知らされた。

親に命を狙われたこと、背の刀傷はその時のものであること、そして自らの手で、親の

命を断ったこと―――

覇王丸、頭を掻いた。

夜にも拘らず、往来には人や子が多い。

「案外―――」

笑いながら、言う。

「喧嘩相手が欲しかったんじゃねえか?」

「………そんな………」

「単純じゃねえってか?そうかぁ?意外と―――」

当たってるのでは、覇王丸は考える。

あの時告げた「死なぬ」という言葉。

ごろつきを斬り倒した際に吐き捨てた、「弱すぎる」という言葉。

口元に浮かべし笑み―――

強者を、求めている。

すぐに倒れる弱者など、不要と言わんばかりに。

そう、それは屈折した心を満たすように―――

「そう意味では俺も―――」

覇王丸、思う。何故、あの凶刃を待っている自分がいるのか、と。

性格の違いはあろう、趣向の違いもあろう、

剣に対する思いも、己の中にある信念も全く違うだろう。

だが、同じではないか。

自分と。

牙神幻十郎も、覇王丸も、強者を求めているのだ。

そして、

「人のこと言えねえぜ、右京さん」

「…………」

「あんたもだろうが」

右京、微笑を浮かべながら黙った。確かに右京もまた、そうであろう。

でなければ、病身の身で居合い刀を振るう理由はない。

と、覇王丸、足を止めた。

「…………?」

右京、顔を見やった。

周囲には、通行人や、街路で遊ぶ子が数人いる。

前方、闇である。何も見えない。

が、覇王丸は告げる。意外なことを、額に汗を流しながら。

「右京さん」

「…………」

「噂をすれば、だ―――」

ちら、周囲を見やった。

子らに、歩くものが合わせて十数人―――

「右京さん、すまないが、寸劇を頼まれてくれないか?」



ざんばら髪の男が、力任せに剣を振るった。

それを、黒塗りの鞘の男が受ける。

受け、損ねた。そのまま、一気に吹き飛ばされる。

耳を劈く破砕音が鳴り響き、辺りが騒然とする。

人が、逃げた。細道で遊んでいた子等は家々に隠れ、または母親に連れられ方々へ散

っていく。

「かー、弱ぇ!もっと強い奴はいねぇのか」

と、ぞくり、身震いを覚えた。

奴が―――

覇王丸、口元に笑みを浮かべる。

それは紛れもない、あの枯華院であの男が浮かべたものと同じである。

そして、今、その笑みの男が、目の前にいる。

牙神幻十郎

「久しぶりだな覇王丸。相変わらず、つまらん小細工を―――」

砕け散った樽の残骸、そこから、右京が顔を出す。

覇王丸、右京を見やった。

へっ、笑った。声はしかし、乾いている。

緊張と、歓喜の為に―――

「地獄の閻魔もてめえの扱いには手を焼くようだな」

「閻魔如きでは貴様の代わりは務まらぬ―――」

「なら、闘るかい―――?」

覇王丸、身構える。

拒むものは何もない。

幻十郎、口元を笑ませる。

「いいだろう、覇王丸―――」

男は、告げる。全身から殺気を放ち、その愛刀を抜き放って―――

「―――お前を殺ス!!」

覇王丸、飛び出した。

幻十郎、飛び出した。

互いの刃が、渾身の力を以って、十字に交わった―――

共に殺意に満ちた、「満面の笑み」を浮かべながら。


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2006.11.15 trackback(0) comment(0)

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